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灯火消えんとして光を増す◆矢代鴻退団

灯火が消えようとする直前に明るくなる。滅亡の直前に一時的に勢いを盛り返すことのたとえ、として、こういう言葉があるのだそうだ。

A-"R"exが、終わる。
誰もが淋しくて、哀しくて、両手いっぱいに絶望を抱えて、あてどもなく彷徨う、旅が。

あれは、私の知るタカラヅカじゃなかった。
そして、二度とタカラヅカでは観られないかもしれない、舞台だった。


そのA-"R"exと共に、灯火が消える。
宝塚の、ともしび…―矢代鴻が。

なんだか、目の前が暗くなったようだ。

あの夏、エンカレッジコンサートの歌が耳の奥に蘇ってくる。

 「この夏は…サントロペには参りません
お借りした あの家には参りません」


と、ささやくように、歌いだしたあのシャンソン。
燦々と降り注ぐ太陽を夢見るように、美しい昔を歌った歌。
何もかもが美しいままなののに、
絶望に満ちていたあの歌―「想い出のサントロペ」

歌う声は淡々と、穏やかでいてなお怖ろしかったあの歌が、
ソロで歌った最後の曲だった。

矢代鴻の歌は、愛よりも、愛に似た哀しみや、苦しみの方が多い気がする。

明るい歌を歌っていてもどこか切なさが漂っていて、
だからこそ「TUXEDO JAZZ」は唯のお洒落なショーにはならなかったと思うのだ。
例えるならば、陽色の哀愁。穏やかな想い出の方が人を泣かせることもある。

「思い出の街 ここに生まれて たとえ遠く旅しようと また帰りくる
Welcome back to Manhattan
Welcome back to my old town
誰もが皆ここでは 自由に生きている」


白も黒も自在に行き来する矢代鴻と、春野寿美礼と、高橋城の素晴らしいメロディと、荻田浩一の詞と。初めて聴くのに、泣きたいほどの懐かしさを感じさせる、そんな歌だった。

(あそこまで春野寿美礼の暗黒面を引き出しておきながら、一見爽やかなショーに見せる手腕も凄いと思うが)


もう少し記憶を辿るならば、真紅の衣装で現れたあの立ち姿。

「聞け 何処の地からか彷徨い来た 毒蜘蛛の話を」
―その言葉の毒に殺されてしまいそうだった「タランテラ」

電子音とヴィブラートの奔流による悪魔の饗宴・・・「ドルチェ・ヴィータ」

「この世界の何処にも帰る家も無くした巡礼の群れ」をあてなき旅路に引きずり込んだ「バビロン」

矢代鴻の歌には、悪魔が宿っている。
しかし時には人間としての限りない優しさや悲哀をも表現する。

魅惑的なクラブのマダムであり。
革命に生きた娘の母であり。
娘とすれ違い続けた不器用な母であり。

「いい娘(こ)だったわ でも娘が本当に何をほしがっていたのか…わたしにはわからなかった あの娘は…何もそんなことは言わなかったから」

矢代鴻の演ずる母親は、「母性」というものから遥か遠いところにある。

「貴方を愛したわけじゃない」と、最後の舞台でさえ、つまるところ人間は人間でしかない、どこまでいっても愚かしい存在だった。
彼女の演技を観ていると、「母親というもの」への幻想について考えることがある。
「母性」は優しい一面を持っているが、「母親」というものが指し示す先は、唯ひとりの女であり、エゴイズムすら持ち合わせている「女という人間」なのだということを。

長々と書いてきたが、最後に。
矢代鴻は、いつから矢代鴻だったのか?

以前CS放送で「クレージーなそよ風」という作品に登場していたのを観たことがある。
1980年、雪組・麻実れい主演のいっぷう変わったバウでのショーである。
いまや振付家として活躍する尚すみれがやんちゃな色男ぶりを発揮して踊り狂っているその後ろで、ひとり現れた歌い手。その特徴的な立ち方も、好戦的なメイクも、身体を揺らして自在に歌い上げる姿も、驚くほど現在と変わらない矢代鴻だった。タランテラ!と同じように、真っ赤な衣装を着て。多少シワも少なく、娘役らしい姿をしているが、あまりにも印象が変わらないその姿。わずか研13であり、その年に専科へ異動したというのだから、驚きを禁じえない。まあ、麻実れい氏もあれで研11だというのだから、昭和スターの恐ろしさというものかもしれないが。


矢代鴻の歌には、魂が宿っている。
その歌声はシャンソンであり、ロックであり、ジャズである。
観るものの魂に響き、揺さぶる存在だった。
その長い歴史のほんの一端でも、触れられることができて、よかった。

願わくば、今後もその火を絶やすことなく灯しつづけて欲しい、という一ファンの戯言である。
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aiai

シビ様についての素晴しい総括に目から鱗がポロポロですた。
昭和って凄い!!

もしよろしければ
>「いい娘(こ)だったわ でも娘が本当に何をほしがっていたのか…わたしにはわからなかった あの娘は…何もそんなことは言わなかったから」
この台詞がどの作品のものか
教えていただけませんか?
  • URL
  • 2008/01/16 16:05

ニケ

aiaiさま、ご訪問ありがとうございます!
無事千秋楽をご覧になったようで、羨ましい限りです(泣)

なんかもう自分でもワケわからん文章になってますが、シビさんへのありったけの愛をこめてうpさせていただきました~。

ご質問の「いい娘だったわ・・・」は、98年雪組「凍てついた明日」のシビさんの独白です。名曲Blues Requiemにのせて語られる台詞で、聴いてると泣けてきます・・・つД`)・゚・。・゚
今年、再演されるこの作品で、どんな風になるのかも楽しみです。
  • URL
  • 2008/01/16 17:15

ニケさんの言葉で一気に涙腺ゆるんだ一人でございます。

本当に大好きなジェンヌさんでした。
立さんも矢代さんも…
一昨年も退団で泣きましたが、今年ももれなく泣いてました。

人の気持ちを揺さぶる歌い手さんがこれから現れるといいのだけど…
  • URL
  • 2008/01/17 01:08

ぽち

ニケさん、シビさん考で一本論文できますよ。
「荻田作品における矢代鴻の母親像~その歌声の効用~」
なんていくらでも書けそうですね(仮タイトルにセンスがないけどw)

ふざけてすみません。私はどうもリアルな実感がわきません。
シビさんがこれから歌わないわけがないと思ってますもの。
オギー外部作品でもラブコールしたりして☆

足を向けて寝られないのはオギーの方じゃないかと思ったりして(^_^;)
  • URL
  • 2008/01/17 01:57

ニケ

■杏さん
観劇、お疲れさまでした~
本当に東京まで行ければよかったのですけれど・・・泣
もう…立さんにしても、かなり辛いものがありますねえ…
切ない~。
歌い手はいらっしゃると思いますので、大事に使っていただきたい(笑)
またグダグダ書くかもですw




■ぽちさん
論文て(笑)
あたくしに論理的な文章は書けませぬ・汗
感情のままに書き散らしておるのでございまする。

あー、絶対歌いますよね、シビさんは。
ぜひとも、コンサートでお願いしたい。
ディナーショーじゃなくて(笑)

あと、オギー外部作品という手もありますよねっ
っていうかオギー、関西公演のある作品やってほしいんですけどねえ…コムちゃん以外は東京ばかりなので…泣

もちろんシビさんには足を向けて寝られないでしょう(笑)
  • URL
  • 2008/01/17 21:56

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